官僚たちの夏/城山三郎

 

官僚たちの夏 (新潮文庫)

官僚たちの夏 (新潮文庫)

 

 ずいぶん前の作品である。30年近く前と知って驚いたが、その仕事の仕方というものは大きく変わっていないようにも思える。

 

この小説は、ミスター通産省と呼ばれた佐橋滋氏がモデルとなっており、主人公の佐橋滋(風越)を中心に作品には田中角栄(田河)や宮澤喜一(矢沢)、強気な風越に押される三木武夫(九鬼)などが登場する。この面子や頭も体力もある官僚たちが、しのぎを削って法案のやりとりや政治的かけひきを行っているところが面白い。

 

この作品は、事前にどの人物が実在した誰なのか分かった状態で読んだほうが絶対面白い。それがないと、何が言いたかったんだとなってしまう可能性も否めない。

 

読み進めていくと、官僚らしくない風越の言動に戸惑いはするものの昭和の香り漂う国政に愛おしさを感じずにはいられない。この時描かれている通産省の仕事は、現代の消費者行政などでも生きており、そう思うと小説とは思えず高度経済成長期の躍動感が生き生きと目の前に広がってくる。

 

話は逸れるが、安倍総理内閣総理大臣秘書官を務めている今井尚哉氏の叔父が、この佐橋(風越)と事務次官の座を争った今井善衛(玉木)だというのが、面白かった。時代は生きている。また、あらためて再読したい作品である。