巨大外資銀行/高杉良

 

巨大外資銀行 (講談社文庫)

巨大外資銀行 (講談社文庫)

 

 舞台は1990年代。実際に起きた外資による債権の詐欺事件、旧日本長期銀行の破たんに伴う異常な契約について描いている。高杉氏は、緻密な取材をもとに銀行から外資に転職したエリートを主人公に日本経済が米系投資銀行に好き放題されていく様を克明に書いていく。

だいたい英文が難解である。

こんなものを見せられても、ヴィクトリア債のクライアントが精読するかどうかきわめて疑わしい。

「ノーリスク・ハイリターンの私募債が存在するなんて、にわかには信じられませんが、マイクは相当なマジシャンなんでしょうねぇ」

「おっしゃるとおりです」

西田は思案顔で腕組みした。

“極秘文書”を一読して、ヤバイと思ったことを山口に伝えるべきかどうか迷ったのだ。(P.306-307)

 憤懣やる方ない想いで蹂躙されていく日本経済を目の当たりにする主人公が生き生きと描かれており、作者の怒りが見えるようである。読者も引きずりこまれるように、外資に好き放題されている日本経済と国の方針に憤りを覚えてくることだろうと思う。

本書の優れている点は、その様子を小難しく描くのではなく、生きた主人公の物語を通して生身の人間によって行われていることだと生生しく描いたところだ。経済と聞いて二の足を踏む読者でも入りこみやすい作品である。それだけ多くの人に、この惨状を知ってもらいたいという作者の思いがあるのだろう。

 

日本経済は、どうなっているのか。素人が知る社会派小説として、とても優れた作品であった。

 

本書は2004年に出版された「小説 ザ・外資」を改題、再編集して2017年に出版されたものである。リーマンショックを含めた続編を書いているという氏のあとがきに、期待を禁じ得ない。