鳥に単は似合わない/阿部智里

 

烏に単は似合わない? 八咫烏シリーズ 1 (文春文庫)

烏に単は似合わない? 八咫烏シリーズ 1 (文春文庫)

 

「藤波さま!」
「ほっときな、あせびの君。おこちゃまの短期だ。あれで内親王とは、笑わせる」
 どうにも気まずくて、あせびは非難の意味をこめて浜木綿を見た。それをどう解釈したのか、浜木綿は悠然と欄干にもたれかかった。(P.42)

 十二国記を彷彿とさせる世界観である。
 宗家の金鳥(きんう)を中心に4つの家があり、宗家に入内するための女子4名を主人公として物語は進んでいく。

 そうした家の人々は、宮鳥(みやがらす)と呼ばれ、格下の人々は山鳥(やまがらす)と呼ばれる。山鳥は鳥になることができ、宮鳥と区別されている。

 十二国記ほど深淵ではないが、和風ファンタジーとすれば面白い。また、この作品が面白いところは単なるファンタジーではなくて、数々の事件が起きるミステリーとなっているところだ。その謎は最後に面白い形で回収されていく。

 ファンタジーとしては物足りないが、興味深い世界観とミステリーをあわせもつエンターテイメント小説と思えば、非常に好感度のもてる面白い作品だった。

 また本作を書き上げたときの作者の年齢が20歳だったということも面白い。言葉遣いの随所に若さや甘さを感じるだけに、今後の作品にぜひ期待したい。正直まだ浅短作品で、何度も読みたくなる作品とは言い難いが、読ませる力のある作品であった。